2019/7/24(水)
イチゴやシャインマスカットだけでなく和牛まで知的財産の問題になるとは。読売新聞(7/24)で話題になっていますので一部抜粋しておきます。
問題の所在
和牛の受精卵や精液が国外に流出して現地の牛と交配されれば、肉質が和牛と似た牛が広く生まれかねない。中国に持ち出されそうになったケースでは、家畜の遺伝資源を保護する国内法が存在しないなど、流出を防ぐ仕組みの不備が浮き彫りになった。
和牛の遺伝資源を保護するのは難しく
知的財産権とは本来、特許権や著作権など「形のないもの」を権利化して保護する仕組みです。しかし、和牛の遺伝資源は形のある有体物なので、この考え方を当てはめにくい。畜産農家が長年かけて改良を重ねた和牛は、古くから存在するので、知財の要件となる「新規性」も乏しい。
流出を防ぐには
管理を厳格にすることです。精液などを売買するときの契約のルールを定め、第三者に渡さないといった当事者間の取り決めをしっかり守るようにする。政府の有識者検討会が7月2日にまとめた報告書でも、国が契約のひな型を作成して管理を徹底することが盛り込まれました。
課題
契約はあくまでも当事者間にしか効力が及びません。第三者が盗んだときに元の所有者が権利を行使するには、新たな法律をつくるしかない。広い意味での知的財産法になるでしょう。
海外との協力
持ち出された先の国で知財保護の効力を生じさせるには、その相手国でも国内法が整備されている必要があります。こうした規制を2国間協定で導入するハードルも高い。当面は国内の流通管理で対応するのが現実的でしょう。
すでに流出してしまった農産物や畜産物
これから対策を強化しても半ば手遅れです。外国で品種登録を出願するには、国内で流通が始まってから4年(果樹は6年)以内と期限が定められ、大部分は間に合わないからです。
和牛の場合、すでにオーストラリア産の「WAGYU」が欧州などで盛んに販売されています。世界中で「和牛」を売って稼いでいるのは豪州なのです。
【出所】読売新聞
地理的表示GI
ブランドを産地とひも付けて保護しようと、国際的に導入されたのが「地理的表示(GI)」制度。日本でも2014年に「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)」が成立した。「神戸ビーフ」「夕張メロン」など82品目(19年6月現在)が登録されている。
日欧EPA
今年2月に発効した日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)では、欧州側がチーズの「ゴルゴンゾーラ」など71品目、日本側が「特産松阪牛」など48品目をGIとして相互に保護することになった。
まとめ
忘れた頃に度々起こる流失問題。長い年月をかけて画期的な新品種を誕生させるもいつの間にか海外に持ち出され、大きな損失を被る図はせっかくの努力も水の泡。企業だと知的財産の管理が徹底しているので問題もさほど起こりにくいが、農産物においては高い意識と危機感が必要。
かつてのカーリング女子の韓国イチゴ騒動に模倣シャインマスカット、最近ではリンゴなども飛び出す始末で貴重な日本の財産を「ただ乗り」横行は後を絶たず。
独り言
当事務所にもテレビ含めマスコミ関連から知的財産権の取材多くなっています。昨秋は岐阜県の高山市民文化会館で知的財産セミナーを開催しました(育成者権、特許権、商標権、地域団体商標、実用新案権、意匠権、営業秘密、地理的表示GI)。
種苗の流出報道を見るたび、またかと思います(苦笑)
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